くも膜下出血
主な原因は、脳の動脈が分かれる部分にできる「脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)」と呼ばれるこぶ状のふくらみが破裂することによって起こります。脳動脈瘤があるだけでは自覚症状はほとんどありませんが、破裂するとくも膜下腔という空間に動脈性の出血が広がります。これが「くも膜下出血」です。
典型的な症状として、突然襲う激しい頭痛があります。出血量が多い場合には、発症と同時に意識を失い、昏睡状態や心肺停止に陥ることもあります。50歳以下の突然死の原因として最も多い病気であり、破裂後に病院へ搬送されても社会復帰できるのはおよそ3人に1人とされています。そのため、破裂する前に脳動脈瘤を発見し、未破裂の段階で治療を行う予防的手術が積極的に行われています。
診断と治療
くも膜下出血は、通常、頭部CTで診断されます。ただし、出血の量がごく少ない場合にはCTで明らかにならず、本人が歩いて受診するような軽症例も存在します。そうしたケースでは、患者の訴える症状や経過が診断の手がかりとなります。さらに詳しい検査としてMRI/MRA、あるいは腰椎穿刺による髄液検査を行い、「キサントクロミー(髄液中に血液由来の色がついている状態)」を確認することで診断がつきます。症状が軽くても再出血のリスクは高く、見逃すことは命に関わるため、慎重な対応が求められます。
当科では、約8割の患者に対して脳血管内治療(コイル塞栓術)を行っています。この方法は開頭せずに血管の中から動脈瘤を閉塞するもので、体への負担が少なく、回復が早いことが大規模な臨床研究でも確認されています。ただし、脳内出血を伴っているなどの特殊な場合には、開頭手術によるネッククリッピング術(動脈瘤の根元をクリップで閉じる手術)を選択することがあります。
未破裂の脳動脈瘤に対しても、基本的には脳血管内手術を選択しますが、中大脳動脈分岐部にあるような瘤では、クリッピング術の方が安全とされるケースもあり、症例ごとに最適な方法を選択しています。未破裂の動脈瘤であれば、手術が順調に終われば数日での退院も可能です。
一方、すでにくも膜下出血を起こしている場合には、たとえ手術が無事に終了しても、頭蓋内に広がった出血の影響から回復するには少なくとも3週間の治療期間が必要で、多くのケースでは1〜2ヶ月の入院を要します。神経症状が強く出ている場合には、さらに長期間のリハビリテーションを必要とし、社会復帰までには時間がかかることが一般的です。